Ⅱ3-1 アウトカム評価尺度・指標の設定と活用計画

概要

CD-TEP法では、「効果のあがる実践プログラムモデルの形成・発展」を、実践家の参画を得て実践的に、かつ科学的・実証的に、そして理論的に進めることをめざしている。「効果のあがる実践プログラムモデル」を形成する前提として、「効果性」をどのような指標でどのように測定するのかが、鋭く問われて来る。「効果的プログラム」を追求するためには、「効果」を捉えるための視点と方法論の確立が不可欠だからである。しかしながら、これまで日本の社会福祉実践プログラムでは、福祉関係者の間で共通理解の得られるエンドポイントになるアウトカム指標の設定が難しく、プログラム効果に関係者の合意形成が困難であることも少なからずあった。

これに対して本課題プロセスでは、福祉実践プログラムが解決を目指すゴール領域の類型を整理した上で、それぞれの領域を適切に評価・把握するための評価尺度・指標の設定方法を示す。その上で、プログラム理論(特にインパクト理論)に基づいて、プログラム利用者を含む利害関係者が十分な合意形成の上で、その福祉実践プログラムに対して導入すべきアウトカム評価尺度・指標を設定する。またプログラム評価のエビデンスを得るための実際の評価活動には、一定の時間的・人材的・経済的コストが伴うために、評価実施組織における実施可能性を考慮に入れて、アウトカム評価尺度・指標の選定と、評価デザインを設計する必要があり、それらを念頭においた評価尺度・指標の選定と評価デザインを構築するアプローチ法を示す。

図Ⅱ3-1-1には、「アウトカム評価尺度・指標の設定と活用計画」の課題処理フローチャートを示した。
「アウトカム評価尺度・指標の設定」は、当該の福祉実践プログラムが解決を目指すゴール領域類型に依拠して整理されるアウトカム評価尺度・指標の中から、主には「プログラム理論:インパクト理論」に対する関係者間の十分な検討・吟味を踏まえて行われる。
同時にプログラム評価のエビデンスを得るための評価活動には、一定の時間的・人材的・経済的コストが伴うために、評価実施組織の評価実施能力・容量(組織キャパシティ)が問われてくる。これらの条件を総合的に勘案して、アウトカム評価やアウトカムモニタリングで使用するアウトカム評価尺度・指標を設定する。
設定された「アウトカム評価尺度・指標」は、「Ⅱ3-2. アウトカム評価調査の実施とその評価結果の活用」において、アウトカム評価調査、アウトカムモニタリング評価調査で活用されるとともに、フィデリティ評価との関連を検討する「Ⅱ3-5. アウトカム評価と効果的援助要素の関連性検証、評価結果活用」でも使用される。これらの検討結果は、最終的には、「Ⅱ4-1. 効果的プログラムモデルの構築」に反映される。
アウトカム評価尺度・指標の設定と活用計画の実施手順は、図Ⅱ3-1-2に示した。


【図Ⅱ3-1-1、および図Ⅱ3-1-2】

1) インプット

①効果的プログラムモデルのインパクト理論

評価対象として考慮する福祉実践プログラムのアウトカム評価尺度・指標の設定のためには、プログラムゴールを明確にすることが重要で、そのために効果的プログラムモデルのプログラム理論・インパクト理論を検討する必要がある。プログラム理論・インパクト理論(21-1-31)は、「Ⅱ1. プログラム理論の評価と構築・再構築フェーズ(21-0-01)」に記載されている。

②福祉実践プログラムが解決を目指すゴール領域の類型

福祉実践プログラムの福祉アウトカム指標・尺度を選択・設定する基盤となる、アウトカム指標・尺度の基本的な考え方と位置づけ、および把握・測定する指標・尺度の領域について整理を試みる。

1. プログラムゴールとの関連からみた、客観的指標と主観的指標

福祉実践プログラムのプログラムゴール(目標)として設定される福利アウトカム指標は、通常の場合は、客観的指標である。これは領域によらず、すなわち、高齢者福祉領域、児童・思春期福祉領域、障害者福祉領域、精神保健福祉領域によらず、社会プログラムが社会や関係者間の合意を得てゴールの達成をめざすためには、社会全体でその達成を明確に確認できる客観的指標がアウトカム指標に位置づけられる必要があるからだ。退院促進・地域移行プログラムにおける退院率(地域移行率)、地域定着日数、就労移行支援プログラムにおける就労率、就労継続日数等のようにである。それは、その社会プログラムに関わるさまざまな利害関係者が、プログラムゴールとなるアウトカム指標を明確に確認ができ、利害関係者間において、ゴールの達成程度、社会プログラムの効果を確認できなければならないからである。
一方で、社会福祉実践プログラムは、プログラムを利用する利用者が希望する生活や思いを実現するためのものでもある。そのため、福祉実践プログラムが実現をめざすゴール(目標)には、利用者の希望や思いの実現が含まれる必要がある。そのためにも、福祉アウトカム指標・尺度には、主観的指標・尺度が含まれる必要がある。
社会プログラムが社会的な問題の解決のために設定する、主に客観的指標で設定される福祉アウトカム指標と、プログラム利用者の希望や思いの実現を捉える主観的指標は、多くの場合相対するものではなく、一定の連続線上に位置付くことが期待される。特に、社会福祉実践プログラムの場合は、客観的指標で捉えられる社会的価値の実現(就労する、退院する、社会参加を進める、生活の質を高める、家族介護負担を軽減する、など)が、プログラム利用者の希望や思いの実現と、同一方向に向かっていることが多いであろう。
このような二つの領域のプログラムゴール、そして福祉アウトカム指標・尺度は、福祉実践プログラムを開始する前に、プログラムの設計図であるプログラム理論、特にインパクト理論を慎重に作成して、プログラム利用者を含む利害関係者の十分な合意形成をはかる必要がある。

2. 客観的指標による福祉アウトカム指標の枠組み ~福祉実践プログラムの種類とプログラムゴール・アウトカム指標の領域

社会福祉実践プログラムの種類は多様であるが、社会プログラムとして、社会の理解と合意を得ながら進められるプログラムゴール(客観的指標)は、比較的限られたいくつかの領域に整理できる(表Ⅱ3-1-1)。
福祉実践プログラムの種類は、大きく社会福祉問題をもつ人本人を対象にしたプログラムと、社会福祉問題をもつ人本人を取りまく支援環境に関わるプログラムがある(表Ⅱ3-1-1のA領域~D2領域、およびE1領域~F領域に対応)。
まず、社会福祉問題をもつ人本人を対象にしたプログラムのゴールについては、大きく4領域、このうち2領域(B領域とD領域)はさらにその中が2領域に分かれて、全体で6領域のプログラムゴールが設定できる。具体的には、表Ⅱ3-1-1のとおり、A領域の「生活基盤の変更による自立的(自律的)で質の高い地域生活の実現」、B領域の社会機能の維持、向上(この中がさらに、B1領域の「社会的役割・技能の獲得・拡大」、B2領域の「更生保護、逸脱行動の是正」)、C領域の「身体・生命の安全確保、危険の回避・危険からの離脱」、D領域の生活の維持・安定と、生活の質の向上(この中がさらに、その比重の程度に応じて、D1領域の「地域生活の維持・安定、再発・悪化防止」、D2領域の「社会関係の構築、拡大、生活の質の改善、生きがい・ホープの獲得・拡大」)である。それぞれのゴール領域を実現する社会福祉実践プログラムの種類は、表Ⅱ3-1-1の右列に示している。
次に、社会福祉問題をもつ人本人を取りまく支援環境、具体的には家族などの身近な援助者、福祉スタッフ、そして一般住民を対象にした福祉実践プログラムのゴール領域は、それぞれE1領域「家族やインフォーマル援助者の負担軽減、パートナーシップ形成によるより効果的な援助体制の形成」、E2領域「福祉スタッフの意識・態度・行動の改善」、F領域「一般住民の福祉意識・態度・行動の改善」となる。
これらの福祉プログラムゴール領域ごとに、対応する福祉アウトカム指標・尺度は一定のものが使用される。客観的指標、主観的指標を併せて一覧表にしたものが表Ⅱ3-1-2、A領域~D領域の客観的指標に絞って表示したものが表Ⅱ3-1-3である。表に示すとおり、客観的指標については、それぞれのプログラムゴール領域に応じて、特に重要な指標と、ある程度重要な指標、ほとんど注目する必要がない指標が分かれることが明らかである。
社会プログラムにおけるプログラムゴールに関連した福祉アウトカム指標・尺度の性格と機能から考えて、科学的な測定が可能であるという側面とともに、実践現場において、簡便で直感的に理解しやすい指標・尺度であることが求められよう。たとえば、就労率や退院率、再発率、再犯率、地域生活継続日数、就労継続日数など、注目する指標イベントの発生頻度や継続日数、期間などが重要な意味をもつことが大きい。これは、実践現場の中で、アウトカムモニタリングを実施して、実践の成果の程度を把握する必要性からも重要である。

3. 主観的指標による福祉アウトカム指標の枠組み

主観的福祉アウトカム指標について、表Ⅱ3-1-2および表Ⅱ3-1-4のとおり、まず社会福祉問題をもつ人本人を対象にしたプログラムのゴールについては、基本的には、「生活満足度・主観的QOLの向上」が設定される。これに、「エンパワーメント、自己効力感、レジリエンスの向上」「自己選択、自己決定意識の向上」「自尊感情の向上、セルフスティグマ減少」「ホープ(感)、生きがい(感)の向上」「リカバリー意識の向上」「ワーカビリティ、援助プログラム利用準備性の向上」「ソーシャルサポート(感)の改善」「セルフヘルプ意識の向上」「セルフケア意識、準備性向上、薬物治療態度向上」「サービス満足度の向上」などが加わる。
また、社会福祉問題をもつ人本人を取りまく支援環境、すなわち家族などの身近な援助者、福祉スタッフ、そして一般住民を対象にした福祉実践プログラムのゴール領域は、家族など身近な援助者に関する福祉アウトカム指標・尺度としては、「介護負担(感)、バーンアウトの軽減」と「ケア意識、ストレングス志向意識の向上」が特に重要である。また、「ケア自己効力感の向上」「福祉対象者への消極的意識の改善」も課題になる。また、福祉スタッフに関する福祉アウトカム指標・尺度としては、「介護負担(感)、バーンアウトの軽減」「ケア意識、ストレングス志向意識の向上」に加えて、「ケア自己効力感の向上」「職務満足度・キャリア意識の向上」「福祉対象者への消極的意識の改善」などを問う必要があろう。
さらに、一般住民に対する福祉アウトカム指標・尺度については、「福祉対象者への消極的意識の改善」「福祉対象者の受け入れ意識の向上」「福祉サービスへの心理的アクセシビリティ向上」が問われてくる。
主観的福祉アウトカム指標については、表Ⅱ3-1-2および表Ⅱ3-1-4に示すとおり、多くの主観的指標が各プログラムゴール領域に対して、大部分が位置づけられている特徴がある。これらの指標・尺度が主観的福祉アウトカム指標の共通項になる可能性が示唆される。

4. 福祉関連QOL尺度作成に向けて

社会福祉実践プログラムのプログラム評価に、共通に活用できる福祉アウトカム指標・尺度を、福祉関連QOL尺度と位置づけることができるであろう。福祉アウトカム指標・尺度のうち、客観的指標は、福祉実践プログラムのプログラムゴール領域に対して共通するが、福祉実践プログラム全体に関わる指標・尺度は存在しない。これに対して、主観的福祉アウトカム指標・尺度は、各福祉実践プログラムのプログラムゴールをカバーするものと考えられる。
以上を踏まえて、関係者が合意の上共有できる共通のアウトカム指標・尺度としての福祉実践関連QOL(Welfare Service Related QOL)の指標・尺度としては、まず主観的福祉アウトカム指標・尺度を基盤に、プログラム利用者を含む関係者、利害関係者が合意する客観的福祉アウトカム指標を盛り込んで、アウトカム把握・測定の指標・尺度を構築することが望まれる。

2) 検討方法

①研究者間のフォーカスグループ、検討会

「1) インプット」に示した、①効果的プログラムモデルのインパクト理論を踏まえて、②福祉実践プログラムが解決を目指すゴール領域の類型を考慮して、対象となる福祉実践プログラムに必要とされるアウトカム評価尺度・指標を検討する。同時に、「2) 検討方法」の③組織キャパシティ分析をも踏まえて、一定の時間的・人材的・経済的コストに関して、評価実施組織における実施可能性についても検討する。その上で、プロジェクト研究班事務局がたたき台となる、いくつかのアウトカム評価尺度・指標の案を提示する。

②プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会

研究者間のフォーカスグループ、検討会でまとめられた、いくつかのアウトカム評価尺度・指標の案を、プログラム関係実践家、利用者、家族、行政関係者などの利害関係者に集まって頂き、グループ討論を行って内容を検討する。アウトカム評価尺度・指標の選定はプログラム実施組織の負担が伴うため、プログラム関係実践家、あるいは管理者の意見も十分に踏まえ、一方で十分な科学的根拠が得られる評価尺度・指標を選択する。

③組織的キャパシティ分析

3) アウトプット

①アウトカム評価調査で使用するアウトカム尺度・指標とその活用計画

②アウトカムモニタリングで使用するアウトカム尺度・指標とその活用計画