概要
効果的プログラムモデルの実施マニュアルは、効果的プログラムモデルを実践現場で実施し、それを評価・検証して、より良いものに改善していくための基礎・基盤を形成するものである。
効果的プログラムモデル実施マニュアルは、次の意義と目的を持っている。
①効果的なプログラムモデルに関するプログラム理論と効果的援助要素を、実践現場と共有すること
②実施されるプログラムが特定の明確なプログラムゴールを持ち、一貫した効果的な取り組みであることを社会に対して明らかにすること
③そのプログラムが、多くの実践家・関係者によって同様に実施できること
④そのプログラムが目指していることと、その詳細な取り組み方法が多くの実践家・関係者・利用者に理解できること
⑤実施したプログラムを評価・検証して、より効果的なプログラムを追求することを可能にすること
このように効果的プログラムモデルの実施マニュアルは、常により良い効果的プログラムに発展することをめざして活用されるものであり、決して固定的に位置づけるものではない。
図Ⅱ2-2-1には、「Ⅱ2-2. 効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の課題処理フローチャートを示した。「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」は、「Ⅱ1-1 プログラム理論・インパクト理論」(21-1-01)、「Ⅱ1-2 プログラム理論・プロセス理論:サービス利用計画」(21-2-01)、「Ⅱ1-3 プログラム理論・プロセス理論:組織計画」(21-3-01)を基盤として作成され、同時に実践現場の創意・工夫、実践上の改善点を反映するために、「プログラム関係者とのフォーカスグループ」(22-2-13)を行う。同時に作成される「Ⅱ2-1. 効果的援助要素リスト」(22-1-01)は、「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の中核をなすものである。「効果的援助要素リスト」は、実践現場の創意・工夫、実践上の改善点を反映したチェックボックス形式で記述されており((S008)参照)、実践現場からのフィードバックを受けて、随時、より良いものに改善されていく。「Ⅱ4-1 効果的プログラムモデルの構築」(24-1-01)を進める上で、実践的に大きな貢献をするのが「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」である。
効果的プログラムモデルの実施マニュアルの作成手順は、図Ⅱ2-2-2に示した。
1) インプット
①効果的援助要素リスト(1次、2次、3次)
検討する社会プログラムの「効果的援助要素リスト」は、「Ⅱ2-1. 効果的援助要素リストの作成(22-1-01)」にある。
②効果的プログラムモデルのプログラム理論(1次、2次、3次)
検討する社会プログラムのインパクト理論、プロセス理論は、インパクト理論(21-1-31)、プロセス理論サービス利用計画Ⅰ・Ⅱ(21-2-31)(21-2-32)、プロセス理論組織計画(21-3-31)に分かれて、「Ⅱ1. プログラム理論の評価と構築・再構築フェーズ(21-0-01)」にある。
③プログラム関係実践家とのフォーカスグループ、意見交換会
1. フォーカスグループ、意見交換会の設定
既存・試行プログラムが実施されている場合は、その社会プログラムに関わっているプログラム関係実践家に集まって頂き、フォーカスグループ面接や意見交換会を実施する。さらに、プログラムの利用者、家族、行政関係者などの利害関係者に集まって頂き同様に実施する。
プログラム関係実践家については、社会的発信力のあるグッドプラクティス(GP)事例(GP事例)の関係者、全国調査等で把握されたGP事例の関係者(12-1-32)のほか、関連領域の実践、研究などで社会的影響力のあるエキスパートにも依頼する。
参加者数は、7人~15人程度を目安とする。プロジェクト研究班事務局がファシリテーターとなりグループを進行する。開催時間は概ね90分~120分を目処とする。
2. フォーカスグループ、意見交換会の内容
プロジェクト研究班事務局の「効果的プログラムモデルの実施マニュアル案(22-2-31)」「効果的援助要素リスト案(22-1-31)」が既に存在したり、既存の「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の改訂を行う場合は、現行の「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」を用いて意見交換を行う。その際、検討課題が明確な場合は、その焦点となる課題を中心にフォーカスグループ面接を実施する。プロジェクト研究班事務局がファシリテーターとなりグループで、検討課題を中心に議論できるよう配慮する。
「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」がまだできていない場合、検討課題があいまいな状況の場合は、ブレーンストーミング的なグループ発想技法を用いても良い。その際、予備的プログラム理論(インパクト理論、プロセス理論)(21-1-31)(21-2-31)(21-2-32)(21-3-31)、さらにはプロジェクト研究班事務局が作成した「効果的援助要素リスト案(22-1-31)」を用意して、グループの検討資料にする。
3. フォーカスグループ、意見交換会の記録、報告書作成
フォーカスグループ、意見交換会の内容は録音して保存する。可能な限り文字に起こして報告書を作成し、プロジェクト研究班事務局、その他の関係者間でその内容を共有する。
2) 検討方法
①プログラム理論・効果的援助要素リストから実施マニュアル作成の手引き
効果的プログラムモデルの実施マニュアルは、効果的プログラムモデルを実践現場で実施し、それを評価・検証して、より良いものに改善していくための基礎・基盤を形成するものである。常により良い効果的プログラムに発展することをめざして活用されるものであり、決して固定的に位置づけるものではない。効果的プログラムモデルの実施マニュアルの作成プロセスは、同時により良い実施マニュアルを随時改訂するための手順を示すものにもなっている。
1. 効果的プログラムモデル実施マニュアルとプログラム理論・効果的援助要素
効果的プログラムモデル実施マニュアルの構成と盛り込む内容は、「効果的プログラムモデルの実施マニュアルの作成(22-2-31)」に示した。
これに対して、実施マニュアルの中心に位置付くのが、効果的プログラムモデルの「プログラム理論(21-0-01)」であり、「効果的援助要素リスト(22-1-01)」である。これらを、実施マニュアルにどのように適切に位置づけるのかが、とても重要な検討課題となる。
まず「プログラム理論インパクト理論(21-1-01)」は、プログラムがめざしている明確なプログラムゴールと、それに至る道筋を明示する。
また、プログラムプロセス理論の「サービス利用計画(21-2-01)」と「組織計画(21-3-01)」は、プログラムゴールを達成するために、一貫した効果的な取り組みをどのように実施するのかを示す。
さらに、「効果的援助要素リスト(22-1-01)」については、その一貫した効果的な取り組みを具体化したものであり、中核的な介入要素、プログラム要素を示している。
CD-TEP法でこれまで開発・発展させてきた、これらプログラム理論・効果的援助要素リストを、実践現場に移すものが実施マニュアルと言えるのである。
2. 効果的プログラムモデル実施マニュアルの検討方法
「プログラム理論(21-0-01)」、「効果的援助要素リスト(22-1-01)」を中核に据えた効果的プログラムモデルの実施マニュアルを作成する場合、それぞれのプログラム理論と効果的援助要素リストの内容は、CD-TEPの他のプロセスで既に構築されているものを活用する。重要なことは、そのプログラムのゴールと、プログラムの実践レベルの詳細な取り組み方法がどのようにして結び付いているのか、明確に示すことである。個別の「効果的援助要素(22-1-01)」ごとに、その要素の「意義と目的」「具体的な支援内容」「留意点」を明確に示すことが求められている。
これらの検討に当たって、「研究者間のフォーカスグループ、検討会(22-2-21)」「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(22-2-13)(22-2-23)」「フィデリティ評価モニタリング調査における意見交換(22-2-24)」は貴重な機会になる。これら実践現場との対話を繰り返して、実施マニュアルを構築する。
②研究者間のフォーカスグループ、検討会
「1) インプット」に示した、①~③を総合的に検討し、かつ「2) 検討方法」の①プログラム理論・効果的援助要素リストから実施マニュアル作成の手引き(22-2-21)、を踏まえて(研究班の検討会で議論)、プロジェクト研究班事務局がたたき台となる「効果的プログラムモデルの実施マニュアル案」を提示する。
「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の事務局たたき台案において、課題となる点が明確な場合は研究者間でフォーカスグループを開催する。課題があいまいな場合はブレーンストーミング的なグループ発想技法を用いても良い。ホワイトボードを使用したり、プロジェクターに映写しながら、グループで出された意見をグループ内でまとめると良い。
③プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会
研究者間のフォーカスグループ、検討会でまとめられた「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」案を、プログラム関係実践家、利用者、家族、行政関係者などの利害関係者に集まって頂き、グループ討論を行い、その内容を検討する。プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会の実施方法は、「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(22-2-13)」などに示した。
利害関係者のグループは、「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の作成当初は、プログラム関係実践家単独、利用者単独などで開催しても良い。最終的には社会的合意が形成される「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」を作成するために、多様な利害関係者からなるフォーカスグループ、意見交換会を開催して合意形成をはかることが望ましい。このフォーカスグループ、意見交換会は、プログラム理論(21-0-01)や「効果的援助要素リスト(22-1-31)」のテーマと合わせて実施しても良い。
④フィデリティ評価モニタリング調査における意見交換
「効果的プログラムモデルの実施マニュアル」の中核となる「効果的援助要素リスト(22-1-31)」は、フィデリティ評価尺度(23-3-01)に反映される。フィデリティ尺度を用いたモニタリング調査が行われ実践現場を訪問する際に、プログラム関係実践家と効果的援助要素の実施状況、実施マニュアルの使い勝手に関する話し合いを行う(23-4-22)。その際、実施マニュアルの改善点、より効果的な取り組みのために、実践家たちが創意・工夫、改善のための努力をしている点などについて意見交換を行う。
3) アウトプット
①効果的プログラムモデルの実施マニュアルおよび改訂版の作成
1. 効果的プログラムモデル実施マニュアルの構成、盛り込むべき内容
科学的根拠にもとづく実践プログラム(EBP)の実施マニュアルに盛り込むべき内容として、Solomonら(2009)は次の事項を整理している。①プログラムの概要、②解決すべき問題と状態、③プログラムの標的集団について、④プログラムゴール、⑤他のアプローチとの対比、⑥介入プログラムの特徴、⑦利用者と提供者の関係、⑧介入プログループの形態と構造、⑨標準的ケア、⑩特殊な問題への対応戦略、⑪他の公的・私的サポート資源との関係性、⑫終了や移行を扱うプロセス、⑬プログラム提供者の選定、⑭プログラム提供者の研修、⑮プログラム提供者へのスーパービジョン、である。
これらのうち、プログラムゴールや標的集団、解決すべき問題と状態を含むインパクト理論、介入プログループの形態と構造に関わるプロセス理論組織計画、介入プログラムの特徴や標準的ケア、特殊な問題への対応戦略、他の公的・私的サポート資源との関係性、終了や移行を扱うプロセスに関わるサービス利用計画、および標準的ケアに関わる効果的援助要素リストは、これら15項目の中心的な部分を形成している。
効果的プログラムモデルの中核的介入要素である、効果的援助要素リストの個別の詳細な実施方法と、その狙いとすること、留意点については検討が必要であり、「プログラム理論・効果的援助要素リストから実施マニュアル作成の手引き(22-2-21)」にその方法を示した。
効果的援助要素リストの個別項目の実施方法は、実施マニュアルの中心的部分になる。その中には、チェックボックスで示した実践現場の創意・工夫、実践的な努力や配慮の内容を、具体的に記述するとともに、それぞれの項目に対応して、「意義と目的」「具体的な支援内容」「留意点」を盛り込む。
2. 効果的プログラムモデル実施マニュアル作成・発展の手順
効果的プログラムモデル実施マニュアルの作成・発展の手順は、プログラム理論や効果的援助要素の発展と同様のプロセスで進める(21-0-01)、(図Ⅱ1-B)。
第1次のプログラム理論と効果的援助要素リストが完成する際に、第1次の実施マニュアルを作成する。この実施マニュアルを研修テキストとして用いて、プログラムモデルのための研修会を開催する。その上で、第2次および第3次のプログラム理論(21-1-31)(21-2-31)(21-2-32)(21-3-31)、効果的援助要素(22-1-31)を発展させるプロセスと並行させて、実施マニュアルを発展させる。
3. 効果的プログラムモデル実施マニュアルの活用
効果的プログラムモデルの実施マニュアルは、そのプログラムを多くの実践家・関係者が同様の方式で実施できるようにするために、そしてプログラムが目指していることと、その詳細な取り組み方法が多くの実践家・関係者・利用者が共有する上で大きな役割を担っている。
プログラムに関わる実践家に対しては、まず実施マニュアルを研修テキストとして活用して頂く。また、技術支援センターなどからのコンサルテーションやスーパービジョンを受ける際のテキストとして活用する。
同時に、実施マニュアルは実践現場でのモニタリングに活用できる。実践現場でのアウトカムモニタリングを行いながら、良いアウトカムがもたらされた場合は、どのような援助要素が有効であったのか、また良くないアウトカムがもたらされた場合は何が悪い成果に結びついたのかを検討する。
効果的プログラムモデルの具体的な実施内容は、効果的実践内容のチェックボックスを中心的に記述されている((S008)参照)。実践を進める中で、チェックボックスに示されていない実施方法で、良い成果がもたらされた場合は、チョックボックス欄下の余白に「実践上の工夫」欄を設定し、実践家がプログラムを進める上でより効果的な取り組みとして考えついたアイデアを記録する。その内容はフィードバックされて、その新しい実施方法について有効性を検証することが求められる。