Ⅱ1-1 プログラム理論の構築・再構築:インパクト理論

概要

プログラム理論・インパクト理論は、社会プログラムにより解決が期待できるプログラムゴールを定め、そのゴールを達成するためのプログラム効果の因果連関を明らかにしたものである。効果的プログラムモデルを構築する上で、最も重要な基礎・土台を形成するのがインパクト理論と言うことができる。

図Ⅱ1-1-1には、「プログラム理論の構築・再構築:インパクト理論」の課題処理フローチャートを示した。インパクト理論は、CD-TEPの「Ⅰ. 効果的プログラムモデル開発評価ステージ」からは、主には「Ⅰ1-1. ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」と「Ⅰ2-2. プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施」の結果を踏まえて作成される。「プログラム理論の構築・再構築:インパクト理論」の課題処理過程の中では、図Ⅱ1-2-2に示すように、関連するEBPプログラム、ベストプラクティス(BP)プログラム等の知見、関連文献調査、プログラム関係実践家、利用者、家族などの利害関係者との意見交換、検討会、そして、グッドプラクティス(GP)事例の現場踏査調査を行う。また、他のプログラム理論である「サービス利用計画」「組織計画」と整合性を取りながら理論的な検討を行いながら、インパクト理論を構築・再構築する。

作成されたインパクト理論は、まず実践的には「Ⅱ2-2. 効果的プログラムモデルの実施マニュアルの作成」に反映され、最終的には「Ⅱ4-1. 効果的プログラムモデルの構築」がめざされる。同時に、「Ⅱ3. エビデンスにもとづく知識生成フェーズ」に対しては、適切なアウトカム指標の設定に関わる「Ⅱ3-1. アウトカム評価尺度・指標の作成と活用計画」に反映され、「Ⅱ3-2. アウトカム評価調査の実施とその評価結果の活用」が行われる。


【図Ⅱ1-1-1、および図Ⅱ1-2-2】

1) インプット

①既存制度モデル・試行的事業モデルの実施要綱

既に実施されている既存・試行プログラムの場合、そのプログラムの実施要綱、実施マニュアルを入手し、分析する。国制度がある場合でも、都道府県、市町村の要綱がある場合があり、それらについても検討する。特に、その社会プログラムの事業目的やプログラム導入の背景に関する記述に注目し、検討する。

②関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムの知見、文献調査

取り上げる実践プログラムと同様のプログラムゴールを持つ、EBPプログラム、ベストプラクティスプログラムの文献や関連資料を収集、分析する。可能な限り国際的な文献データベースでの体系的な文献収集が望ましい(Web of Science, Medlineなど)。
それらプログラムのインパクト理論が記載されていれば参考にするとともに、プログラムの目標、プログラム導入の背景、主要なアウトカム指標に留意して検討する。

③プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会

④グッドプラクティス(GP)事例の現場踏査調査

既に実施されている既存・試行プログラムの場合、効果のあがる取り組み、特徴的で模範的と考えられる取り組みを行っているグッドプラクティス・プログラム事例(GP事例)を選定して、現場踏査調査を実施する。現場踏査調査の中では、良い成果がどのように生み出されているのか、その現状と経緯を明らかにするとともに、良い成果を生み出すために努力していること、実践現場の創意・工夫、良い成果に結び付くプログラムの要素が何であるのかを把握する。

1. GP事例の現場踏査調査の設定

GP事例は、「プログラム関係者、利害関係者からの聞き取り調査(12-1-11)」や、「既存制度モデル・試行的事業モデルの実情把握調査(12-1-13)」に基づく、「グッドプラクティス(GP)事例報告書(12-1-32)」などによって、10事例~20事例程度選定する。
現場踏査調査の設定方法は、「GP事例の現場踏査調査進め方ガイドライン(T21-001)」に記載してある。

2. GP事例の現場踏査調査のインタビューガイド、面接調査票の作成

全般的な作成方法は、「GP事例の現場踏査調査半構造化面接調査票、インタビューガイドの作成方法ガイドライン(T21-002)」に記載。面接票・インタビューガイドの実例は、(S21-001)などを参照。

「予備的プログラム理論(21-1-31)」に基づいて面接調査票、インタビューガイドの質問項目を設定する。
予備的プログラム理論のうち「予備的インパクト理論」は、「既存制度モデル・試行的事業モデルの実施要綱(21-1-11)」、「関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムの知見、文献調査結果(21-1-12)」、「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(21-1-13)」などを参考に作成する。

インパクト理論に関わる質問内容は、以下の項目を参考に設定する。
○貴団体が当該プログラムに取り組むようになったきっかけ
○当該プログラムに取り組むことと、貴団体の設立趣旨との関連
○(現状はどうあれ)貴団体が目差している当該プログラムについて
○当該プログラムがめざしている目標を実現し、成果を上げるためにプログラムの設定上工夫していること、配慮していること

作成した「予備的インパクト理論(21-1-31)」で重視し、かつ既存・試行プログラムでは、必ずしも位置づけが明確ではないプログラムゴール(たとえば、就労移行支援プログラムの早期の一般雇用への移行、退院促進支援プログラムの地域継続支援と生活の質向上など)については、GP事例の関係者から、そのゴールに対する意見を尋ねる。

既存・試行プログラムで位置づけが明確ではないが、予備的インパクト理論において設定するプログラムゴールは、国際的な水準で先行文献に基づいて設定されるものや、理論的な検討など、「関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムの知見、文献調査結果(21-1-12)」に基づいて設定されるゴールである。

3. GP事例の現場踏査調査時の意見交換

現場踏査調査時には、面接票・インタビューガイドに設定された質問(T21-001)だけでなく、プログラムゴールの設定経緯、地域における利用者のニーズの状況と対応、プログラムゴールを実現する上での努力や配慮、困難など、GP事例の実例に即して意見交換を行う。

4. GP事例の現場踏査調査事例報告書の作成

GP事例の現場踏査調査から戻ったら、できるだけ速やかに事例報告書をまとめる。
全般的な事例報告書の内容と作成方法は、「GP事例の現場踏査調査事例報告書の作成方法ガイドライン(T21-003)」に記載。
インパクト理論に関連する事例報告書の項目としては、①プログラムゴールの設定、②プログラムゴールに対する目標設定、事例考察・コメントとして、③特徴的な取り組み・事業所のストレングス、④より効果的な取り組みになるための課題、などがある。

 

⑤ニーズアセスメントの結果報告書

取り上げる実践プログラムのニーズアセスメントの結果報告書の記述は、「Ⅰ1-1. ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」の「ニーズアセスメントの結果報告書(11-1-31)」にある。

⑥プログラムゴールと標的集団設定に関する報告書

取り上げる実践プログラムのプログラムゴールと標的集団設定に関する報告書の記述は、「Ⅰ1-1. ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」の「プログラムゴールと標的集団設定に関する報告書(11-1-32)」にある。

2) 検討方法

①インパクト理論検討の手引き

 既に述べたとおり、プログラム理論の作成は、効果的プログラムモデルを発展・形成させるプロセスとともに進める(21-0-01)。プログラム理論は、CD-TEP法では図Ⅱ1-Bに示したように、らせん階段状に常により良い効果的なプログラムモデルに発展・進化するように段階的に進化・発展する。

効果的プログラムモデルの発展・形成段階に対応して発展するプログラム理論を、以下では便宜的に「予備的プログラム理論」「第1次プログラム理論」「第2次プログラム理論」「第3次プログラム理論」(21-1-31)と呼ぶ。
「予備的インパクト理論」(「予備的プログラム理論」)は、主に文献調査や関係者からの聞き取りなどによって暫定的に設定したプログラム理論である。GP事例に対する現場踏査調査を実施する際の面接票作成(T21-002)などのために暫定的に作成する。
「第1次インパクト理論」(「第1次プログラム理論」)は、「グッドプラクティス(GP)事例の現場踏査調査(21-1-14)」を中心に把握される、実践現場の創意・工夫、改善点の反映を踏まえて構築される。
「第2次インパクト理論」(「第2次プログラム理論」)は、「効果的援助要素」の量的評価調査の分析結果・エビデンス(23-4-25)を踏まえて構築される。
これに対して、「第3次インパクト理論」(「第3次プログラム理論」)は、当面の最終プログラム理論であり、プログラム関係者や利害関係者の検討会(24-1-21、21-1-22、21-1-23、21-1-24)の合意形成を踏まえて、さらに普及モデルの検討(31-1-31、31-2-31)を通して形成される。

1. 予備的インパクト理論の作成

「予備的インパクト理論」は、GP事例に対する現場踏査調査を実施する際の面接票を作成(T002)するために暫定的に作成する。
「予備的インパクト理論」は、「既存制度モデル・試行的事業モデルの実施要綱(21-1-11)」、「関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムの知見、文献調査結果(21-1-12)」、「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(21-1-13)」、さらには、「ニーズアセスメントの結果報告書(21-1-15)」「プログラムゴールと標的集団設定に関する報告書(21-1-16)」などに基づいて作成する。

2. 第1次、第2次、第3次インパクト理論の作成

「予備的インパクト理論」に基づいて、「GP事例の現場踏査調査半構造化面接票、インタビューガイド(T21-002)」が作成され、現場踏査調査などによって、実践現場の創意・工夫、改善点など反映が反映されて第1次インパクト理論が作成される。
「第1次インパクト理論」を含む「第1次プログラム理論」は、一定の完成度を備えたプログラム理論である。第1次インパクト理論にもとづいて「効果的援助要素リスト(22-1-31)」「効果的プログラムモデルの実施マニュアル(22-2-31)」「効果的プログラムモデルのフィデリティ尺度(23-3-31)」が作成される。
これらを用いて実施される多施設共同による試行的評価調査(23-5-11) の結果に基づいて、「効果的援助要素」の量的分析などが行われ(23-5-31)、「第2次インパクト理論」を含む「第2次プログラム理論」が作成される。
この改訂に当たっては、試行的評価調査のためのプログラムスタッフ研修会(23-5-11)や、「フィデリティモニタリングにおける意見交換(22-1-15)」による「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(21-1-24)」が繰り返し行われる。この中で、「効果的援助要素」の量的分析だけでなく、「効果的プログラムモデル」を実際に実施して、実態に即した形で実践現場からの創意・工夫、改善点などが「第2次プログラム理論」に反映される。
「第3次インパクト理論」を含む「第3次プログラム理論」は、プログラム関係者や利害関係者の検討会(24-1-21、21-1-22、21-1-23、21-1-24)の合意形成を踏まえて、さらに普及モデルの検討(31-1-31、31-2-31)を通して形成される。

3. インパクト理論作成上で重視すること

インパクト理論の作成については、以下のことを重視する。すなわち、まず、①プログラムに対するニーズと標的集団を措定し、その上でプログラムゴールを設定して、そのプログラムゴールをインパクト理論に反映させる。②インパクト理論、サービス利用計画、組織計画の順にプログラム理論を作成する、③インパクト理論作成では、社会が解決を求めるゴールと利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴールを、近位・中位・遠位のアウトカムの中に適切に配置する、④利用者本人を身近に支援する環境(身近な支援環境;家族・地域社会・支援スタッフなど)からの影響をインパクト理論に反映させる、⑤できるだけ実践現場で理解しやすいよう、可視化されたチャートを作成すること、である。
②に関しては、インパクト理論の後、組織計画、サービス利用計画の順にプログラム理論を作成する必要がある場合もある(21-2-22)。
作成した「インパクト理論(予備的、1次、2次、3次)(21-1-31)」は、「関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムとの比較分析(21-1-22)」を行うとともに、「研究者間のフォーカスグループ、検討会(21-1-23)」「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(21-1-24)」を繰り返しながら、より精緻化された、関係者の合意が得られて、より実践的な理論に発展していく。

4. プログラムゴール・標的集団の設定・分析とインパクト理論

インパクト理論作成に当たっては、プログラムに対する対象者のニーズと標的集団を措定し(11-1-31)(11-1-32)、その上でプログラムゴールを設定して(11-1-32)、そのプログラムゴールをインパクト理論に反映させる。
いくつかのレベルのプログラムゴールを、インパクト理論の近位・中位・遠位のアウトカムのいずれかに適切に位置づける(図Ⅱ1-A)。
プログラムゴールは通常、遠位のアウトカムに位置付くことが多い。しかし、たとえば退院促進支援プログラムで、社会が合意するプログラムゴールが「退院促進」や「地域定着」であっても、長期入院患者が望むゴールが「地域生活の質の向上」や「生活満足度の向上」であれば、後者のゴールを社会的合意形成の後に遠位アウトカムに設定することも可能である。

5. 社会が解決を求めるプログラムゴールと

利用者本人が解決を求めるリカバリーゴール
インパクト理論の構築に当たっては、当面社会が解決を求めるプログラムゴールと利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴールが一致しない場合がある。前項で示した退院促進支援プログラムの例の通りである。この場合、社会が解決を求めるプログラムゴールと利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴールのそれぞれをプログラム理論の近位・中位・遠位のアウトカムとして、適切にインパクト理論の中に位置づける。そのためには、実効ある社会プログラムにするためのプログラムゴール設定について、十分な社会的合意を形成する必要がある。

6. 身近に支援する環境をインパクト理論に位置づける

福祉実践プログラムでは、利用者本人を身近に支援する環境(身近な支援環境;家族・地域社会・支援スタッフなど)との相互作用を重視しながらプログラムを実施する必要がある。そのため、これら対象利用者を身近に支援する環境への影響を適切にインパクト理論に反映させることが求められる。

 

②関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムとの比較分析

③研究者間のフォーカスグループ、検討会

「1) インプット」に示した、①~⑥を総合的に検討し、かつ「2) 検討方法」の①インパクト理論検討、②関連するEBPプログラム、ベストプラクティスプログラムとの比較分析を踏まえて(研究班の検討会で議論)、プロジェクト研究班事務局がたたき台となるインパクト理論を提示する。
インパクト理論の事務局たたき台案において、課題となる点については研究者間でフォーカスグループを開催する。課題があいまいな場合はブレーンストーミング的なグループ発想技法を用いても良い。ホワイトボードを使用したり、プロジェクターに映写しながら、グループで出された意見をグループ内でまとめると良い。

④プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会

研究者間のフォーカスグループ、検討会でまとめられたインパクト理論案を、プログラム関係実践家、利用者、家族、行政関係者などの利害関係者に集まって頂き、グループ討論を行い、その内容を検討する。プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会の実施方法は、「1) インプット③プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(21-2-13)」に示した。
利害関係者のグループは、インパクト理論作成当初は、プログラム関係実践家単独、利用者単独などで開催しても良い。最終的には社会的合意が形成されるインパクト理論を作成するために、多様な利害関係者からなるフォーカスグループ、意見交換会を開催して合意形成をはかることが望ましい。

3) アウトプット

①プログラムインパクト理論の作成、改訂版

1. インパクト理論作成の手順

インパクト理論を含むプログラム理論作成の手順は、「インパクト理論検討の手引き(21-1-21 )」に記載した。プログラム理論は、効果的プログラムモデルが発展するプロセスとともに、より精緻化され、関係者の合意が得られたより実践的な理論に発展する(図Ⅱ1-B)。CD-TEPでは、プログラム理論の発展・進化のプロセスに沿って、便宜的に「予備的プログラム理論(主に文献調査や関係者からの聞き取りなどによって暫定的に設定)」「第1次プログラム理論(実践現場の創意・工夫、改善点の反映を踏まえて構築)」「第2次プログラム理論(「効果的援助要素」の量的分析を踏まえて構築)」「第3次プログラム理論(プログラム関係者・利害関係者の合意形成、普及モデルの検討を通して形成)」を設定している。

2. 可視化され、理解しやすいインパクト理論の作成

インパクト理論は、導入される社会プログラムが解決をめざすプログラムゴールを示す重要なプログラムの「設計図」である。できるだけ実践現場や利用者・家族にも理解しやすいよう、可視化されたチャートとして作成する必要がある。

インパクト理論のサンプル図(チャート)は、(S21-003)に示す。
通常は、プログラムの実施から近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムへと、左から右に(あるいは上から下へ)単方向のモデルとして表示する。インパクト理論に位置づけられる近位・中位・遠位のアウトカムには、社会が解決を求めるゴールと利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴールを適切に配置する。

福祉実践プログラムは、利用者本人を身近に支援する環境(身近な支援環境;家族・地域社会・支援スタッフなど)との相互作用を重視したプログラムであるため、インパクト理論には、身近な支援環境への影響を、必要に応じて、近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムのいずれかに位置づける。身近な支援環境のアウトカムは、インパクト理論の下部、あるいは右側にまとめて示す。必要に応じて、利用者本人への影響である近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカム全体に影響する支援環境については、近位・中位・遠位アウトカムそれぞれに対して横断的に影響する要因として表示しても良い(例:S21-003-x)。

 ②プログラムインパクト理論の解説文作成の手引き、改訂版

1. インパクト理論解説文の位置づけ

インパクト理論を含むプログラム理論は、社会プログラムが解決をめざす社会的問題と、解決すべきプログラムゴールを示すとともに、社会プログラムがどのようにその問題を解決に貢献するのか、プログラムの構成要素を示してその仕組みを理解しやすく多くの関係者に示すための社会プログラムの「設計図」である。
このうち、インパクト理論は、社会プログラムが解決をめざす社会的問題・プログラムゴールが、どのような手順で解決されようとするのかを、論理的に、かつ視覚的に分かりやすく示すことが求められている。

プログラム理論の解説文は、プログラムの実施に関わる実践家、プログラムの利用者・家族、そしてプログラムの実施に関わる利害関係者に対して、このプログラムに対する共通理解を促し、社会的合意事項を記録するために作成される。
具体的には、次のものにインパクト理論とその解説が記載されることを想定する。

  1. プログラム実施に関わる実践家に対するプログラム実施マニュアル
  2. プログラム出資者を含む利害関係者にプログラムに対する理解を促すパンフレット
  3. プログラム利用者・家族にプログラムに対する理解を促すパンフレット

インパクト理論の解説文については、それぞれの資料の読み手、関係者に対して、プログラムの仕組みが良く理解できるように提示することが求められる。①~③に盛り込む内容はそれぞれ異なるが、プログラムゴールに関わるインパクト理論はすべてに関わる重要な要素である。それぞれの立場の人たちに、インパクト理論が適切に理解できるように説明する解説文は重要な位置づけを持つ。

2. プログラム実施マニュアルにおけるインパクト理論の解説文

CD-TEPプログラム評価法は、実践家に評価活動に参画して頂き、効果的プログラムモデルの形成をめざしている。このため、プログラムに関わる実践家に対して、効果的なプログラムモデルの骨組みととなるプログラム理論を分かりやすく、かつ論理的に伝えることはきわめて重要である。
効果的なプログラムモデルの第1次プログラム理論(21-1-31)が作成された段階で、プログラムに関わる実践家のためにプログラム実施マニュアル(22-2-31)を作成する。その中には、主要な文書としてプログラム理論インパクト理論、およびその内容を適切に伝えるための解説文を掲載する。
プログラムインパクト理論は、通常、インパクト理論図(インパクト理論チャート)として示される。インパクト理論解説文は、プログラムに関わる実践家に対して、この理論図において示されている、以下の内容を分かりやすく、かつ論理的に記述する。

  1. プログラムが解決をめざす社会的問題と、プログラムゴール
  2. プログラムが対象とする標的集団(対象層)
  3. 利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴール
  4. 近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムの内容、およびプログラムゴールやリカバリーゴールとの関係
  5. プログラムの身近な支援環境への影響、効果、および利用者本人の近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムとの関連
  6. インパクト理論図の因果連鎖(近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムの関連)の根拠、文献的裏付け
  7. インパクト理論図が社会的に受け入れられる背景の説明。実践現場の創意・工夫、評価調査結果に基づく科学的根拠(エビデンス)、社会的合意形成の内容など。

第1次プログラム理論インパクト理論に基づいて作成するプログラム実施マニュアルの内容は、必要に応じて、効果的プログラムモデル実施研修会を開催して説明し、実践家からフィードバックを受ける。
第2次プログラム理論インパクト理論、第3次プログラム理論インパクト理論のそれぞれに対応させて、プログラム実施マニュアルを作成する。その中には、もちろんインパクト理論図、およびインパクト理論解説文が含まれる。それらの内容は、第1次理論、第2次理論の経験に基づいて、実践家にとってより理解しやすく、論理的なものに改訂する。

3. 利用者・利害関係向けのパンフレットにおけるインパクト理論の解説文

CD-TEPプログラム評価法は、実践家に評価活動に参画して頂くとともに、プログラム利用者にも参加して頂き、効果的なプログラムモデルを形成することをめざしている。同時に、社会におけるさまざまな利害関係者の理解を得ながら、より効果的なプログラムを形成することを期待している。
プログラム理論インパクト理論は、社会プログラムが解決をめざす社会的問題・プログラムゴールが、どのような手順で解決されようとするのかを、論理的に、かつ視覚的に分かりやすく示すものであり、プログラム利用者にも、プログラムに関わるさまざまな利害関係者にも、そのプログラムを理解して頂くために不可欠な要素である。インパクト理論を適切に理解できるように説明する解説文は重要な位置づけを持っている。
プログラム利用者やプログラムに関わる利害関係者に、プログラム内容を伝えるためのパンフレットに盛り込まれるインパクト理論解説文は、プログラム実践家に対するプログラム実施マニュアルに盛り込まれているインパクト理論解説文の内容と比較して簡便なものになる。しかし、プログラム実施マニュアルに含まれる要素はある程度カバーする必要がある。
特に以下の項目は、十分に説明・解説をする必要がある。

  1. プログラムが解決をめざす社会的問題と、プログラムゴール
  2. プログラムが対象とする標的集団(対象層)
  3. 利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴール
  4. 近位アウトカム、中位アウトカム、遠位アウトカムの内容、およびプログラムゴールやリカバリーゴールとの関係
  5. インパクト理論図が社会的に受け入れられる背景の説明。実践現場の創意・工夫、評価調査結果に基づく科学的根拠(エビデンス)、社会的合意形成の内容など。