Ⅰ1-1 ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定

概要

効果的な福祉実践プログラムモデルを形成・構築する出発点は、その福祉実践プログラムを必要としているニーズ状況を明らかにするとともに、その結果に基づいてプログラムゴールを設定するとともに、プログラムが対象とする標的集団の状況、範囲、問題の程度を判断することにある。これらの一連の手続きはニーズアセスメントと呼ばれている。

ニーズアセスメントでは、まず課題となる社会問題を抱える人たちがどのような人たちであるか、そしてその人たちの社会問題がどのような状況にあるのかを明らかにする。
その上で、その社会問題がどのような社会的背景や要因によって生み出されているかを分析する。社会プログラムの設計は、社会問題を生み出す背景や要因のどこに、どのように働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのかを明らかにすることから検討が始められる。
これらの検討を踏まえて、導入する社会プログラム・福祉実践プログラムのゴール(program goal)やプログラム目標(program objectives)が設定される。同時に、プログラムが対象とする標的集団の範囲やその状況、問題の程度が明らかにされる。
ここで、プログラムゴールとプログラム目標の違いを述べておく。プログラムゴールは、対象となる社会プログラム・福祉実践プログラムが解決をめざす全般的使命(overall mission)のことであり、プログラムが解決をめざす方向性を抽象的な概念として示すものである。たとえば、精神科病院の退院と地域移行・地域定着の促進などである。退院と地域移行率が30%であるとか、地域定着の指標として再入院率を10%未満にするというように具体的な測定可能な指標として示されるプログラム目標とは区別される。
プログラムゴールと標的集団は、いずれもニーズアセスメントの結果、社会問題解決のために必要な社会プログラムが、ある程度、明らかになってから設定が行われる。このため、「Ⅰ2-1. 既存・試行プログラムの現状把握」を踏まる必要があり、同時にプログラムモデルの構築に関わる「Ⅰ2-2. プログラム評価可能性・再編可能性アセスメント」が同時並行的に進められることが必要になる。

図Ⅰ1-1-1には、「Ⅰ1-1. ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」の課題処理フローチャートを示した。「ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」は、まず、「プログラム関係者、利害関係者からの聞き取り調査」からスタートし、「既存統計、機関記録等の分析」を行い、ある程度体系的な「社会調査によるニーズ把握、分析」が行われる。
一方で、社会問題の解決に導入されている社会プログラムのゴールや標的集団を検討するために、「既存制度モデル・試行的事業モデル」が検討されるとともに、プログラムゴールの設定のためには、「福祉プログラムのプログラムゴール類型」が検討される(図Ⅰ1-1-2参照)。「既存制度モデル・試行的事業モデル」の現状については、「Ⅰ2-1. 既存・試行プログラムの現状把握」、またプログラムモデルに関しては、「Ⅰ2-2. プログラム評価可能性・再編可能性アセスメント」と相互関係を持ちながら進める。
ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定の実施手順は、図Ⅰ1-1-2に示した。


【図Ⅰ1-1-1、および図Ⅰ1-1-2】

CD-TEP評価アプローチ法では、効果的プログラムモデルを構築するに当って、プログラム理論の活用(T)、実践現場からの創意・工夫のインプット(P)とともに、エビデンスにもとづく知識の生成(E)を3つの柱としている。
効果的なプログラムモデルの開発ステージでは、この3つの軸は必ずしも分化していない。まず課題となる社会問題を抱える人たちの現状については、エビデンスにもとづく知識の生成(E)であり、同時に現在利用するサービス、プログラムの課題については、実践現場からの創意・工夫のインプット(P)が検討される。またプログラムゴールや標的集団の設定には、プログラム理論(T)が活用される。

1) インプット

①プログラム関係者、利害関係者からの聞き取り調査

1. 聞き取り調査の目的

まず、社会プログラムが対象とする社会問題や社会状況の概況を理解・把握するために、その社会問題や社会状況に関わる関係者や、社会問題を抱える対象の人たちに、問題解決には直接有効性を持たない類似のサービス・プログラムに関わる関係者に聞き取り調査を実施して、問題の全体像を把握する。

2. 聞き取り調査の対象者

その社会問題や社会状況を良く知るキーインフォーマント(key informants)(鍵となる情報提供者)が、まず有力な対象者となる。キーインフォーマントは、社会問題の性質や特徴、広がり、標的集団の特徴や必要とされるサービスについて良く通じている人材である。キーインフォーマントの紹介で、次なるキーインフォーマントにアプローチするスノーボールサンプリングの手法も利用できる。キーインフォーマントの中には、将来社会サービスが導入された折には、サービス利用者になる可能性のある対象者も含まれており、ニーズの状況については詳しい情報が提供される。
「問題」が社会的な「問題」として取り上げられているとすれば、社会的問題の所在はある程度社会的に明らかになり、マスメディアなどで取り上げられたり、関係者の手記や談話が出されていたりする場合もあるだろう。それらの情報を分析するとともに、さらなる情報収集を聞き取り調査で行うこともできる。
さらに、社会問題を抱える対象の人たちに、問題解決には直接有効性を持たない類似のサービス・プログラムに関わる関係者についても、ニーズに合致しないサービスの状況を聞き取ることができる。

3. インタビューガイドの作成、内容

この聞き取り調査は、対象とする社会問題や社会状況の概況を理解・把握する目的があるため、問題発見的な自由面接法、あるいはゆるやかな半構造化面接法によって進める。インタビューガイドに盛り込む内容は、①社会プログラムが対象にしなければならない標的集団が、どのような状況に置かれているか、②それがどのくらいの範囲で広がっているか、③どのくらい深刻な状況にあるのか、④その社会問題がどのよう社会的背景や社会的要因で生み出されているのか、⑤従来の支援プログラムではどこが不十分で、ニーズに合致していないのか、などである。

4. 聞き取り調査の配慮点

プログラム関係者、利害関係者からの聞き取り調査に基づくニーズ把握は、あくまでもニーズの概況を捉えるための予備的調査である。この聞き取り調査の結果を踏まえて、より詳細で、体系的なニーズ状況の分析を行うことが期待される。

②既存統計、機関記録等の分析

社会福祉実践プログラムが対象にしようとする「問題」が、どのような状況で発生しているのか、官庁統計(国、自治体とも)やその他の既存大規模調査に基づく社会指標を分析して、「問題」の動向を把握する。同時に、「問題」をもつ対象者が利用するサービス機関の記録を分析し、「問題」の範囲を推定する情報が含まれていることがある。これらを通して、「問題」の発生状況とその要因について概況を把握することが可能である。

③社会調査によるニーズ把握、分析

1. 社会調査の目的

暫定的なプログラムのゴールと標的集団を設定するために、プログラムに関連するニーズ(誰の、何が、どのような状態にあるのか)が社会的にどのような状況にあるのかを社会調査によって明らかにする。
既に関連する社会調査が行われていないかを調べたうえで行う。既に行われている場合は「既存統計、機関記録等の分析(11-1-12)」を行う。ただし、既存の社会調査ではニーズが必ずしも十分に明らかにされていない場合があるので、既存の資料に基づいて検討を行い(11-1-20)、その結果に基づいて明らかにしたい内容を改めて精選し、社会調査を行うことが望ましい。

2. 調査対象の設定

社会調査は、これから扱おうとする問題に関する社会的な状況を明らかにすることが求められる。そのため、対象に偏りが出ないよう、限られた地域を対象とするのではなく、代表性のある対象の情報が得られることが求められる。
調査対象の設定および調査回答者の設定は、次の方法が考えられる。

a. 調査対象の設定

  • 悉皆(全数)調査
  • 無作為抽出調査
  • 階層化無作為抽出調査

b. 調査回答者の設定

  • 福祉対象者(障害者・高齢者・児童等)に直接回答を求める方法
  • 福祉対象者に関する情報を把握・管理している機関(施設管理者、市町村等)に回答を求める方法
  • 福祉対象者に支援を提供する者(施設職員等)に直接回答を求める方法

上記はいずれも、調査で明らかにしたい内容や母集団数に基づく調査実施可能性などに基づいて選択する。また、対象条件はできるだけ広めに設定しておくことが望まれる。

例:「発達障害をもっていてひきこもり状態にある者」(狭い)
→ 「ひきこもり状態にある者」または「発達障害をもつ者」(広い)

3. 調査内容の作成

調査内容は、「プログラム関係者、利害関係者からの聞き取り調査(11-1-11)」や「既存統計、機関記録等の分析(11-1-12)」、「既存制度モデル・試行的事業モデルの実施要綱(11-1-14)」に基づいて設定する。
作成には「実情把握調査・調査票の作成マニュアル(T013)」が参考になる。これに基づいて作成されたサンプルが「実情把握調査・調査票の様式(S022)」および「都道府県取り組み状況調査・調査票サンプル(S023)」に用意してある。
また、プログラムによって把握すべき項目は異なるが、以下のような項目が参考になる。
○ 人口に対する特定の問題を有する者の人数
(1人暮らし高齢者数、ニート者数、障害者数等)
○ 特定の問題を有する者の背景に関する情報

  • 生活環境関連情報(家族状況、独居・家族同居の別、職の有無、社会的役割の有無等)
  • 福祉サービス利用状況関連情報(障害者手帳取得者数、福祉施設等利用者数、サービス利用中断者数等)
  • 福祉的ニーズ解消の状況

(就労者数、退院者数等)
○ 特定の問題を有する人に対する福祉サービスの状況

  • サービス提供の状況(場所[来所、入所、訪問、同行、電話等]、頻度等)
  • サービス提供従事者の特徴(従事者数、従事者の専任・兼任の別、従事者の専門性[資格等]の状況等)
  • サービス提供機関の特徴(機関の運営母体種別、他の運営事業、事業の目的、職員研修実施の状況等)

4. 社会調査実施結果のまとめ

社会調査の実施結果は、エクセル、SPSS等の統計ソフトを用いて集計、解析を行う。 集計および解析は、以下の視点でまとめると検討を行いやすい。
○ 特定の問題をもつ人の状況

  • 特定の問題をもつ人の人数・人口比の割合等
  • 特定の問題をもつ人の特徴(性別、年齢層、障害の有無、家族構成等)

○特定の問題をもつ人へのサービス提供の状況

  • 特定の問題をもつ人のサービス利用率、利用頻度等

○特定の問題をもつ人の問題解決の状況

  • サービス提供による問題解決の状況(就労率、地域生活維持率等)

○ 機関の特徴別のサービス利用率、問題解決の状況

  • 実施目的、サービス提供者の配置(人数・職種・勤務形態等)、運営母体機関の種別   等

○ 対象者の特徴別の問題解決の状況

④既存制度モデル・試行的事業モデルの要綱

社会福祉実践プログラムが対象にしようとする「問題」を既存制度モデルや、試行的事業モデルがどのように扱って来たか、明らかにしておく必要がある。国レベルの実施要綱はインターネットなどで比較的容易に入手できる。都道府県、市町村を含めた全国的な取り組み状況を要綱の分析から明らかにすることもできる。その方法については、「Ⅰ2-2. プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施(12-2-01)」の「プログラム実施要綱の把握調査(都道府県調査、中央官庁調査)(12-2-12)」に示した。これらの分析から、問題の社会的認識の状況と、対応できないニーズ(unmet needs)の状況を知ることができる。

⑤福祉プログラムのプログラムゴール類型

社会福祉実践プログラムの種類は多様であるが、社会プログラムとして、社会の理解と合意を得ながら進められるプログラムゴール(客観的指標)は、比較的限られたいくつかの領域に整理できる(23-1-12)(表Ⅱ3-1-1参照)。これは、福祉実践プログラムのアウトカム指標を整理・検討する上で重要な視点であり、「Ⅱ3-1. アウトカム評価尺度・指標の設定と活用計画(23-1-01)」に整理した。福祉実践プログラムに対するニーズの所在を分析する際には、福祉実践プログラムが対応する、あるいは対応可能な領域を整理しながら検討するのも、一つのアプローチ法になる。

2) 検討方法

①ニーズアセスメント分析表

1. 分析・検討の方針

ニーズ分析の目的は、①課題となる社会問題を抱える人たちがどのような人たちであるのか、②その人たちの社会問題がどのような状況にあるのか、③その社会問題がどのように概念化されるか、④その社会問題がどのような社会的背景や要因によって生み出されているのか、⑤社会問題を生み出す背景や要因のどこに、どのように働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのかを、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに比較検討して、明らかにすることにある。
さらに以上の検討を踏まえて、⑥導入すべき社会プログラムのゴールを設定し、さらには、⑦その社会プログラムの対象となる標的集団の範囲、⑧置かれている状況、⑨問題の程度を明らかにする。

2. ニーズアセスメント分析表

ニーズ把握・調査・分析を行った、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに、得られた情報を、マトリックス形式のニーズアセスメント分析表にまとめて記録する(表Ⅰ1-1-1??参照)。
それぞれの情報源から得られた情報を分析表の1行に記し、前項分析・検討の方針に示した①~⑤の項目、および⑥~⑨の項目を記載し、比較検討する。
キーインフォーマントやその他利害関係者に対する聞き取り調査結果は、独立した別表にまとめて分析しても良い。その分析結果をまとめて、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果などとともに、別のニーズアセスメント分析表に整理しても良い。
社会問題をもつ対象者のニーズ状況とニーズを生み出す要因に関わる①~⑤の結果は、分析表の結果に基づいて、プログラム理論・インパクト理論(21-1-31)に類似した要因関連図のモデルにまとめることができる。また④⑤に基づいて、プログラム理論・プロセス理論(21-2-31)(21-2-32)(21-3-31)を踏まえながら、有効な社会プログラムの設計が可能になる。
想定される社会プログラムを踏まえた⑥~⑨の分析に基づき、ニーズに根ざした、プログラムゴールの設定と、標的集団の設定(11-1-32)が可能になる。

3. ニーズアセスメントの留意点

ニースアセスメントは、可能な限り客観的で科学的な方法で行い、社会的合意形成の基盤になるように行われる必要がある。同時に、この社会問題や社会プログラムに関わるさまざまな利害関係者に意味ある形で記述するように配慮する。社会プログラムの形成に関わる、インパクト理論(21-1-31)に類似した要因関連図のモデルは、社会学的な概念化を深め、学問的に妥当な形で提示をして、社会的な合意が得られるように配慮する。

②プログラムゴール分析表

1. 分析・検討の方針

プログラムゴールは、対象となる社会プログラム・福祉実践プログラムが解決をめざす全般的使命(overall mission)のことであり、プログラムが解決をめざす方向性を概念的に示すものである。プログラムゴールの分析と、標的集団の分析は、いずれもニーズアセスメントの結果、社会問題解決のために必要な社会プログラムが、ある程度、明らかになった段階で実施する。ただし、プログラムゴールは抽象的概念として、記述されるために、社会プログラムの詳細が定まっていなくとも良い。すなわち、必要とされる社会プログラム・福祉実践プログラムの見通しがある程度立ち、そのプログラムに対するニーズを検討して、プログラムゴールが設定され、そのプログラムに対する標的集団が規定されてくる。
プログラムゴールの設定は、社会プログラムの導入が考慮される社会問題が、①どのような社会的背景や要因によって生み出されているのか、②社会問題を生み出す背景や要因のどこに、どのように働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのか、を明らかにし、③そのために導入が求められる社会プログラムはどのようなタイプのものであるのか、そのプログラムの導入によって、④期待されるプログラムの成果は何か、そして、⑤最終的に期待されるプログラムゴール(program goal)は何か、⑥具体的にめざすべきプログラム目標(program objectives)は何か、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに比較して検討する。

2. プログラムゴール分析表

ニーズ把握・調査・分析を行った、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに、得られた情報をマトリックス形式のプログラムゴール分析表にまとめて記録する(表Ⅰ1-1-2??参照)。
それぞれの情報源から得られた情報を分析表の1行に記し、前項分析・検討の方針に示した①~⑥の項目を記載し、比較検討する。
キーインフォーマントやその他利害関係者に対する聞き取り調査結果は、独立した別表にまとめて分析しても良い。その分析結果をまとめて、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果などとともに、別のニーズアセスメント分析表に整理しても良い。
ゴールの設定に当たっては、福祉プログラムのプログラムゴール類型(11-1-15)を参照するとともに、ニーズアセスメント分析(11-1-21)で明らかにされたプログラム理論・インパクト理論(21-1-31)に類似の要因関連図モデルを参照する。

3. プログラムゴール分析の留意点

社会問題の定義や社会プログラムのゴール設定は、最終的には政治プロセスであって、状況固有の特徴から自動的に導かれるものではない(Rossiら、2004)。そのため、政治過程に関わらない実践家、研究者は、可能な限り科学的で、論理的で、説得力のあるゴール分析の結果を示すことが求められている。

③標的集団分析表

④利害関係者分析表

⑤関係プログラムエキスパートのフォーカスグループ、意見交換会

対象とする福祉実践プログラムや関連プログラムに関わる実践や研究などで社会的影響力のあるエキスパートに集まって頂き、社会福祉実践プログラムが対象にしようとする「問題」の所在と要因、プログラムが目ざすべきゴール、プログラムのターゲットとなる対象集団について、グループで検討する。関係プログラムのエキスパートが、「問題」の所在と要因、プログラムが目ざすべきゴール、プログラムのターゲットとなる対象集団について多くの知識と経験を有することが期待されるためである。
検討課題が明確な場合は、その焦点となる課題を中心にフォーカスグループ面接を実施する。プロジェクト研究班事務局がファシリテーターとなりグループで、検討課題を中心に議論できるよう配慮する。
検討課題が十分にまとまっていない場合、検討課題があいまいな状況の場合は、ブレーンストーミング的なグループ発想技法を、ワークショップ形式で開催しても良い。

⑥プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会

本課題プロセスの1) インプットに示した、①~⑤を総合的に検討し、かつ2) 検討方法の①~⑤の検討内容を踏まえて、社会福祉実践プログラムが対象にしようとする「問題」の所在と要因、プログラムが目ざすべきゴール、プログラムのターゲットとなる対象集団について、グループで検討する。
検討課題が明確な場合は、その焦点となる課題を中心にフォーカスグループ面接を実施する。プロジェクト研究班事務局がファシリテーターとなりグループで、検討課題を中心に議論できるよう配慮する。
検討課題が十分にまとまっていない場合、検討課題があいまいな状況の場合は、ブレーンストーミング的なグループ発想技法を、ワークショップ形式で開催しても良い。開発援助で良く使用されるPCM(Project Cycle Management)のワークショップ手法を活用し、「問題分析」「目的分析」「プロジェクトの選択」を行っても良い。
プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会の持ち方については、「Ⅱ2-1. 効果的援助要素リストの作成(22-1-01)」の「プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ、意見交換会(22-1-25)」に詳しく述べた。

⑦研究者間のフォーカスグループ、検討会

本課題プロセス・1) インプットに示した①~⑤を総合的に検討し、かつ2) 検討方法の①~⑥の検討内容を踏まえて、社会福祉実践プログラムが対象にしようとする「問題」の所在と要因、プログラムが目ざすべきゴール、プログラムのターゲットとなる対象集団について、グループで検討する。その上で、プロジェクト研究班事務局が、本課題プロセス・3) アウトプット「①ニーズアセスメントの結果報告書」、「②プログラムゴールと標的集団設定に関する報告書」を取りまとめる。

3) アウトプット

①ニーズアセスメントの結果報告書

1. 分析・検討の方針

ニーズ分析の目的は、①課題となる社会問題を抱える人たちがどのような人たちであるのか、②その人たちの社会問題がどのような状況にあるのか、③その社会問題がどのように概念化されるか、④その社会問題がどのような社会的背景や要因によって生み出されているのか、⑤社会問題を生み出す背景や要因のどこに、どのように働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのかを、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに比較検討して、明らかにすることにある。
さらに以上の検討を踏まえて、⑥導入すべき社会プログラムのゴールを設定し、さらには、⑦その社会プログラムの対象となる標的集団の範囲、⑧置かれている状況、⑨問題の程度を明らかにする。

2. ニーズアセスメント分析表

ニーズ把握・調査・分析を行った、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに、得られた情報を、マトリックス形式のニーズアセスメント分析表にまとめて記録する(表Ⅰ1-1-1??参照)。
それぞれの情報源から得られた情報を分析表の1行に記し、前項分析・検討の方針に示した①~⑤の項目、および⑥~⑨の項目を記載し、比較検討する。
キーインフォーマントやその他利害関係者に対する聞き取り調査結果は、独立した別表にまとめて分析しても良い。その分析結果をまとめて、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果などとともに、別のニーズアセスメント分析表に整理しても良い。
社会問題をもつ対象者のニーズ状況とニーズを生み出す要因に関わる①~⑤の結果は、分析表の結果に基づいて、プログラム理論・インパクト理論(21-1-31)に類似した要因関連図のモデルにまとめることができる。また④⑤に基づいて、プログラム理論・プロセス理論(21-2-31)(21-2-32)(21-3-31)を踏まえながら、有効な社会プログラムの設計が可能になる。
想定される社会プログラムを踏まえた⑥~⑨の分析に基づき、ニーズに根ざした、プログラムゴールの設定と、標的集団の設定(11-1-32)が可能になる。

3. ニーズアセスメントの留意点

ニースアセスメントは、可能な限り客観的で科学的な方法で行い、社会的合意形成の基盤になるように行われる必要がある。同時に、この社会問題や社会プログラムに関わるさまざまな利害関係者に意味ある形で記述するように配慮する。社会プログラムの形成に関わる、インパクト理論(21-1-31)に類似した要因関連図のモデルは、社会学的な概念化を深め、学問的に妥当な形で提示をして、社会的な合意が得られるように配慮する。

②プログラムゴールと標的集団設定に関する報告書

1. 分析・検討の方針

プログラムゴールは、対象となる社会プログラム・福祉実践プログラムが解決をめざす全般的使命(overall mission)のことであり、プログラムが解決をめざす方向性を概念的に示すものである。プログラムゴールの分析と、標的集団の分析は、いずれもニーズアセスメントの結果、社会問題解決のために必要な社会プログラムが、ある程度、明らかになった段階で実施する。ただし、プログラムゴールは抽象的概念として、記述されるために、社会プログラムの詳細が定まっていなくとも良い。すなわち、必要とされる社会プログラム・福祉実践プログラムの見通しがある程度立ち、そのプログラムに対するニーズを検討して、プログラムゴールが設定され、そのプログラムに対する標的集団が規定されてくる。
プログラムゴールの設定は、社会プログラムの導入が考慮される社会問題が、①どのような社会的背景や要因によって生み出されているのか、②社会問題を生み出す背景や要因のどこに、どのように働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのか、を明らかにし、③そのために導入が求められる社会プログラムはどのようなタイプのものであるのか、そのプログラムの導入によって、④期待されるプログラムの成果は何か、そして、⑤最終的に期待されるプログラムゴール(program goal)は何か、⑥具体的にめざすべきプログラム目標(program objectives)は何か、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに比較して検討する。

2. プログラムゴール分析表

ニーズ把握・調査・分析を行った、キーインフォーマント、その他利害関係者、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果ごとに、得られた情報をマトリックス形式のプログラムゴール分析表にまとめて記録する(表Ⅰ1-1-2??参照)。
それぞれの情報源から得られた情報を分析表の1行に記し、前項分析・検討の方針に示した①~⑥の項目を記載し、比較検討する。
キーインフォーマントやその他利害関係者に対する聞き取り調査結果は、独立した別表にまとめて分析しても良い。その分析結果をまとめて、既存統計・機関記録等の分析結果、ニーズ調査分析結果などとともに、別のニーズアセスメント分析表に整理しても良い。
ゴールの設定に当たっては、福祉プログラムのプログラムゴール類型(11-1-15)を参照するとともに、ニーズアセスメント分析(11-1-21)で明らかにされたプログラム理論・インパクト理論(21-1-31)に類似の要因関連図モデルを参照する。

3. プログラムゴール分析の留意点

社会問題の定義や社会プログラムのゴール設定は、最終的には政治プロセスであって、状況固有の特徴から自動的に導かれるものではない(Rossiら、2004)。そのため、政治過程に関わらない実践家、研究者は、可能な限り科学的で、論理的で、説得力のあるゴール分析の結果を示すことが求められている。