C-1. CD-TEP効果的プログラムモデル開発評価ステージ

Ⅰ1. 「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズ

 社会問題や社会状況を改善するために設計された、組織的で継続的な取り組みである社会的介入プログラム(以下社会プログラム;対象となる問題が福祉問題である時は福祉実践プログラムと呼ぶ)を、適切かつ効果的に機能するプログラムに形成・構築・発展させるための前提条件は、社会プログラムが改善をめざす社会問題や社会状況をていねいに、そして客観的に、さらにはこの社会問題や社会プログラムに関わるさまざまな利害関係者に意味ある形で記述することである。

そのためには、まず社会プログラムが対象にしなければならない標的集団が、どのような状況に置かれており、それがどのくらいの範囲で広がっているのか、どの程度深刻な状況にあるのかを明らかにする必要がある。それとともに、その社会問題を一般化のために概念化して、問題がどのような社会的背景や社会的要因によって生み出されているのかを実証的に明らかにする。同時に、問題を生み出す背景や要因のどこに働き掛ければ(介入すれば)、問題の解決に結び付くのかについて検討する必要がある。
ある社会プログラムに対する社会的ニーズを体系的に明らかにし、課題となる社会問題の状況と、それを生み出す社会的背景や要因を分析するとともに、社会プログラムの対象となる社会的問題を抱えた人たち(標的集団)の状況、範囲、問題の程度を判断する一連の手続きをニーズアセスメントと呼ぶ。この分析・検討から、社会プログラムが解決をめざすべきプログラムゴールが明らかになるとともに、プログラムが対象とする標的集団の性質や数、そして広がりが明らかになる。

「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズでは、一括して、「ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」という課題プロセスに取り組む。この課題プロセスでは、ニーズアセスメントの取り組みの中から明らかにされる、ある福祉実践プログラムに対するニーズの分析結果、およびそこから明らかにされるプログラムゴールと標的集団の設定を行う方法について提示する。

図Ⅰ1-1-0には、「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズと「効果的プログラム再編成・プログラム評価可能性アセスメント」フェーズの概要を合わせて示した。「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズの「ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」は、「効果的プログラム再編成・プログラム評価可能性アセスメント」フェーズの「既存・試行プログラムの現状把握」と「プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施」を行う基盤となる。

Ⅰ1-1 ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定

Ⅰ2. 「効果的プログラム再編成・プログラム評価可能性アセスメント」フェーズ

社会問題や社会状況を改善するために設計された、組織的で継続的な取り組みである社会的介入プログラム(以下社会プログラム;対象となる問題が福祉問題である時は福祉実践プログラムと呼ぶ)を、適切かつ効果的に機能するプログラムに形成・構築・発展・改善させるためには、既に導入された既存制度プログラムや試行的に導入された試行プログラムを大幅に見直すことが求められる場合が少なからずある。

特に日本の福祉実践プログラムでは、これまで個別プログラムの形成・構築・発展に、系統的なプログラム評価の方法論が活用されることがほとんどなかった。多くの福祉実践プログラムは行政主導で短期間に設計され、効果的プログラムモデルやプログラムの効果性が不明確なまま、そのプログラムが全国に導入されることが少なからずあった。とりわけ福祉実践プログラムでは、エンドポイントになるアウトカム指標の設定が難しいと考えられることが多かった。このため、プログラムのゴール設定に関係者間の合意が形成されていない。必然的にプログラム目標やプログラムの成果との関係で、効果的なプログラムモデルを構築する取り組みが停滞するか、ほとんど行われないことになる。したがって、比較的多くの既存制度モデルのプログラム、試行的事業モデルのプログラムは、効果的プログラムに構築・発展・改善させるために、大規模に再編成することが求められることがある。

さらに既存制度モデルのプログラムや試行的事業モデルのプログラムに対して、評価可能性アセスメントの段階に立ち戻って、プログラム評価を行う必要のある場合が少なからず起こる。評価可能性アセスメントとは、プログラムが評価に必要な前提条件を満たしているかどうかを確認し、前提条件が満たされていれば、評価をどのようにデザインすればよいかを調査し、確認する評価活動である。評価可能性アセスメントには、次の3つの活動要素がある(Rossiら、2004;Wholeyら、2004)。すなわち1つには、細心の注意を払ってプログラムモデルを記述しプログラムのゴールと目標を定義すること【①プログラムゴールの明確化】、2つ目には、そのモデルがどのくらい十分に定義されており、評価可能であるかをアセスメントすること【②プログラムモデルの明確化】、3つ目には、利害関係者の評価に対する関心、および評価所見の活用可能性を確認すること【③評価実施の社会的合意形成】、である。
これらの活動の大前提として、③利害関係者間でその福祉実践プログラムの体系的な評価を行うことが、社会的に求められることを共通認識にする必要がある【③評価実施の社会的合意形成】。たとえば、民主党政権による事業仕分けで「廃止」判定が出された若者自立塾プログラムは、事業仕分けの中ではプログラム評価の必要性が強調されながら、遂に公的には体系的なプログラム評価が行われることなく、事業廃止に追い込まれた(大島ら、2011)。評価実施に対する社会の合意形成がなされなかった典型例と言えるであろう。

「効果的プログラム再編成・プログラム評価可能性アセスメント」フェーズでは、既に導入された既存制度プログラムや試行的に導入された試行プログラムを大幅に見直すことが求められる場合の活動について、「Ⅰ2-1. 既存・試行プログラムの現状把握」と「Ⅰ2-2. プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施」について示す。既存プログラムを大幅に見直す場合でなくとも、そのプログラムが十分に期待される成果を上げていない場合には、改めてこれらの手続きを行ってみると良いだろう。


図Ⅰ1-1-0は、「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズでも示した、「Ⅰ. 効果的プログラムモデル開発評価ステージ」全体の共通チャートである。
「効果的プログラム再編成・プログラム評価可能性アセスメント」フェーズの概要を、「プログラムゴールと標的集団の明確化」フェーズの活動と関連させて示している。「既存・試行プログラムの現状把握」は、既存制度プログラムや試行プログラムを見直す大前提となる。また、さらにその前提として、そのプログラムが必要とされる「ニーズ把握とプログラムゴール・標的集団の設定」を確認することが求められる。その上で、「プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施」が行われることになる。
これら一連のプログラム評価の取り組みを通して、プログラムゴールが明確で、そのゴール達成に向かって効果をもたらすプログラムモデルとそのプログラムの輪郭が明確に示されることになる。そしてそれが可視化されることにより、プログラム関係実践家やプログラム利用者を含めた利害関係者が合意できるプログラム評価と、効果的なプログラムの形成・構築・発展・改善が可能になるのである。

Ⅰ2-1 既存・試行プログラムの現状把握

Ⅰ2-2 プログラム評価可能性・再編可能性アセスメントの実施