2. CD-TEP評価アプローチ法の共通基盤を支える6方式の内容

1) 測定可能なプログラムゴールの設定と共有化の方法

実践プログラムのプログラムゴール、目標とするプログラムの成果を明確に設定し、測定可能にすることが求められる。
一般的には、福祉実践プログラムのプログラムゴールは不明確なものが多いと考えられがちだが、必ずしもそうではない。福祉実践プログラムが解決をめざすゴール領域は類型化することができ、それぞれの領域を適切に評価・把握するための評価尺度・評価指標の設定は可能である(表B-1参照)。

表B-1 福祉実践プログラムの領域別ゴール類型

【利用者本人を対象としたプログラム】

  • A領域:生活基盤の変更による自立的(自律的)で質の高い地域生活の実現(脱施設化・地域移行プログラム、退院促進支援プログラム、家族からの自立支援プログラムなど)、
  • B領域:社会的役割・技能の獲得・拡大(就労移行支援事業、デイケア、若者自立塾、ニート・ひきこもり支援プログラム、等)
  • B2領域(B領域の枝分類):再犯防止、社会的逸脱行動の是正(更生保護プログラム、物質依存回復プログラム、等)
  • C領域:身体・生命の安全確保、危険の回避・危険からの離脱(DVシェルター、物質依存プログラム、一時保護所プログラム、等)
  • D1領域:地域生活の維持・安定、再発・悪化防止(ケアマネジメント、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイ、介護予防、等)
  • D2領域:社会関係の構築、拡大、生活の質の改善、生きがい・ホープの獲得・拡大(同上/ピアサポート支援、クラブハウス、高齢者憩いの家、等)

【ニーズをもつ利用者を支援する家族環境・スタッフ環境の改善に関わるプログラム】

  • E1領域:家族やインフォーマル援助者の負担軽減、パートナーシップ形成によるより効果的な援助体制の形成(家族心理教育、介護者支援プログラム、ボランティア養成講座、等)
  • E2領域:福祉スタッフの意識・態度・行動の改善(各種研修プログラム、スーパービジョン・コンサルテーションプログラム、等)
  • F領域:一般住民の福祉意識・態度・行動の改善(福祉教育プログラム、当事者交流プログラム、予防プログラム、等)

福祉実践プログラムのプログラムゴール(目標)として設定される福利アウトカム指標は、通常の場合は、客観的指標である。これは、高齢者福祉領域、児童・思春期福祉領域、障害者福祉領域などの領域によらず、社会プログラムが社会や関係者間の合意形成を得てゴールの達成をめざすためには、社会全体でその達成を確認できる客観的指標がアウトカム指標に位置づけられる必要がある。退院促進・地域移行プログラムにおける退院率(地域移行率)、地域定着日数、就労移行支援プログラムにおける就労率、就労継続日数などのようにである。
一方、社会福祉実践プログラムは、プログラムを利用する利用者が希望する生活や思いを実現するためのものであり、福祉実践プログラムのもう一方のゴール(目標)には、利用者の希望や思いの実現を含む必要がある。これらは、主観的指標・尺度で把握することが求められる。
社会プログラムが社会的な問題の解決のために設定する、主に客観的指標で設定される福祉アウトカム指標と、プログラム利用者の希望や思いの実現を捉える主観的指標は、多くの場合相対するものではない。一定の連続線上に位置付くことが期待される。特に、社会福祉実践プログラムの場合は、客観的指標で捉えられる社会的価値の実現(就労する、退院する、社会参加を進める、生活の質を高める、家族介護負担を軽減する、など)が、プログラム利用者の希望や思いの実現と、同一方向に向かっていることが期待される。

福祉実践プログラムのプログラムゴール・アウトカムがどのようなものであるかについては、プログラムインパクト理論の中に示されている。そのため、プログラムゴール・アウトカムが何であるかについては、可視化されたインパクト理論を確認すると良い。
2領域のプログラムゴール、すなわち客観的指標で捉えるプログラムゴールと、主観的指標・尺度で把握されるプログラムゴールは、実践プログラムを開始する前に、そしてプログラム評価を実施する前に、プログラムの設計図であるプログラム理論、特にインパクト理論を慎重に検討して特定しておくことが必要である。もちろん、プログラム理論(インパクト理論)の作成に当たっては、プログラム利用者を含む利害関係者の十分な合意形成をはかることが重要であることは言うまでもない。

2) 合意できるプログラム理論形成の方法

社会プログラムの設計図であるプログラム理論が作成され、明示されていることが必要である。プログラム理論は、プログラムゴール・アウトカムに関わるインパクト理論と、プログラム内容に関わるプログラムプロセス理論(CD-TEP法では、さらにRossiら(2004)にならい、プログラムのサービス機能である「サービス利用計画」と、プログラムの構造・提供組織を示した「組織計画」に分かれる)から構成される。
プログラム理論は、その内容が可視化され図解されている必要がある。プロセス理論については、プログラムの内容、輪郭や範囲が明確にされ、盛り込まれるべき効果的援助要素(効果的プログラム要素)が明確に位置づけられていることが求められる。

私たちは、直接的に利用者との接触がある対人サービスプログラムを対象に、社会プログラムと利用者との相互作用を重視したRossiら(2004)のプログラム理論の枠組みに準拠して、プログラム理論の作成方法を定式化した。具体的には以下のとおりである。
①原則的には、インパクト理論、サービス利用計画、組織計画の順序で、プログラム理論を作成すること(サービス利用計画(Ⅱ型)を適用する場合は、組織計画→サービス利用計画の順に進める)
②できるだけ実践現場で理解しやすいよう、可視化された図式(チャート)を作成すること
③インパクト理論の作成では、社会が解決を求めるゴールと、利用者本人の多くが解決を求めるリカバリーゴールを、近位・中位・遠位のアウトカムの中に適切に配置すること
④利用者本人を身近に支援する環境(家族・地域社会・支援スタッフ)からの影響をインパクト理論に反映させること
⑤サービス利用計画はプログラムの入口から出口までのフローチャートとして設定すること
⑥サービス利用計画の入口部分では、標的集団への積極的な広報・アウトリーチ活動、関係づくり、利用者の意向を尊重した支援計画の作成の位置づけ、出口部分では必要に応じて継続的支援の提供の位置づけるを共通要素とすること
⑦組織計画は、サービス利用計画でリストアップされたサービス機能や活動を整理して、それを実現するためのプログラム組織の人材、組織、物的資源、財政資源をチャートに示すこと、

などを共通要素とした。
プログラム理論の作成に当たっては、EBPプログラム、ベストプラクティスプログラムなど既存の効果的プログラムモデルの内容を参考にするとともに、プログラムの実践に関わる関係者との繰り返しの対話に基づいて、実践現場からの創意と工夫、実践的な努力・配慮を反映して作成する。

3) 効果的援助要素(効果的プログラム要素)の特定と共有化の方法

効果的援助要素(critical components)とは、実践プログラムの援助効果を生み出すことに関わる効果的なプログラム要素、プログラム実施方法のことである。根拠にもとづく実践プログラム(EBPプログラム)を実施・普及し、より効果的で実践的なプログラムモデルを発展させる上で不可欠の概念として、近年、保健福祉サービス研究の領域で注目されている。
CD-TEP評価アプローチ法の共通基盤としては、効果的援助要素(効果的プログラム要素)が特定され、関係者の共有化と計測可能な形になっていることが求められている。
効果的援助要素の特定については、プログラム理論の検討とともに、実践現場からのインプットと、エビデンスによる検証を総合的に行う。また、効果的援助要素の共有化と計測可能な形態に関しては、次項の「チェックボックス方式による効果的援助要素の記述と測定」と連動している。
プログラム理論との関係については、効果的援助要素は、効果的プログラムモデルを構成する援助要素であり、主にプロセス理論(サービス利用計画と組織計画)の骨格部分を構成する。
このため、効果的援助要素の具体的な作成方法については、プログラム理論プロセス理論に基づいて、理論上重要と考えられる15~30項目程度を取り上げて整理する。通常は、組織計画から5~10項目、サービス利用計画から10~20項目を抽出する。サービス利用計画からの項目は、サービス利用の入口から出口まで順序立てて上位の3~6領域を設定して整理する。

効果的援助要素の抽出と整理の作業は、基本的にはプログラム理論プロセス理論に準拠するが、同時に実践現場からのインプットも重視する。そのための方法は、プログラム関係実践家・利用者とのフォーカスグループ面接、意見交換会、先進事例への訪問聞き取り調査・対話、実践現場のエキスパートからの意見聴取などである。
実践現場からのインプットは、しばしば実践現場における創意工夫や実践的努力の内容が多く盛り込まれる。それら現場の創意工夫、実践的努力の内容を1次コードとして、グランディドセオリーアプローチなど質的研究方法論における下位コードを上位コードに概念化するための方法論を援用して、効果的援助要素として整理・統合する方法も有用である。

4) チェックボックス方式による効果的援助要素の記述と測定の方法

実践プログラムの効果的援助要素は、その内容が具体的な支援内容、支援方法を示したチェックリストの形で明示する。効果的援助要素の内容は、しばしば実践現場における具体的な創意・工夫や、実践的な努力や配慮としてのまとめられる。そのため、実践現場におけるそれら効果的な取り組みを適切に評価に位置づけるための方法として、チェックボックス形式の記述方法、整理方法、評価方法を導入することができる。
まず効果的援助要素の記述方法としては、できるだけ具体的な実践現場の創意・工夫、実践的な努力や配慮の内容をチェックボックス化して提示する。チェックボックスの内容は、可能な限り具体的に行動レベルで記述する。チェックボックスとして、実施の有無が確認できるように配慮する。同時に、他の事業所での実施が考慮しにくい特殊な内容は、一般的な取り組みとして普遍化できるように記述する。
実践現場からのインプットとしては、「プログラム関係者とのフォーカスグループ面接(22-1-12)」「グッドプラクティス(GP)事例の現場踏査調査(22-1-14)」「フィデリティモニタリングにおける意見交換(22-1-15)」などを用いる。
チェックボックスを基盤とした効果的援助要素は、効果的プログラムモデルを構成する援助要素であり、効果的モデルの適合度(モデルフィデリティ; model fidelity)(Bondら、2000)を評価する上で重要な指標となる。
効果的プログラムモデルへの適合度を、フィデリティ尺度(Fidelity Scales)というプロセス評価尺度で評価する方法が、近年保健福祉サービス研究の領域で注目されている。CD-TEP評価アプローチ法では、実践現場の創意工夫、実践的努力の内容を反映したチェックボックスを活用して、フィデリティ尺度を構成し、プロセス評価、モニタリング評価などに活用する。

5) 効果的援助要素チェックボックスに基づく実施マニュアルの構築方法

EBPプログラムやベストプラクティスプログラムなどの効果的プログラムモデルを実施・普及し、より効果的で実践的なプログラムモデルを求めていくためには、多くの実践家が実施可能なように実践プログラムの実施マニュアルを作成する必要がある。
CD-TEP評価アプローチ法が、実践プログラムの実施マニュアルに求める条件は次の二つである。
①チェックボックスによって構成される効果的援助要素に基づいて実施マニュアルが構成されていること
②実践現場の創意・工夫によって、実施マニュアルが随時、改訂可能な形態を備えていること

まず、チェックボックスによって構成される効果的援助要素については、効果的実践内容の中核に位置付くものである。チェックボックスの記述は、できるだけ具体的な内容を備えているが、実施マニュアルの中ではその実施方法、実施例を解説する。また、効果的な取り組みとして期待される「チェックボックス候補」の内容もマニュアルの中には、「実践上の工夫」として提示することができる。他の事業所での実施が考慮しにくい特殊な内容についても、一般化の可能性があれば例示として掲載 するなど、可能な限り良い取り組みの具体例を多く提示する。
実施マニュアルの改訂可能な形態については、「実践上の工夫」の欄には、余白を多く用意し、実践家がプログラムを進める上でより効果的な取り組みとして考えついたアイデアはできるだけ記録に留める。またアウトカムモニタリングを同時に行い、良い成果に結び付いた期間については、どのような取り組みが行われていたのかを検討して、「実践上の工夫」欄に追加して、事業所として共通に取り組む支援内容とすることもできる。
追加された「実践上の工夫」は、実践を繰り返し、結果を実証した上で、チェックボックス項目に追加される場合もある。さらには、それが蓄積して効果的援助要素項目に位置づけられることも期待される。

6) プログラムゴールとなるアウトカム指標と効果的援助要素の関連性の日常的な把握と実証の方法

CD-TEP評価アプローチ法では、日常的な取り組みの中でどのような具体的な取り組みがプログラムの成果に結び付くのか、検証できる仕組みと方法論が用意されていること、プログラムゴールとなるアウトカム指標と効果的援助要素の関連性を、日常的に把握と検証が可能になっていることをめざしている。
実践プログラムの日常的な取り組み状況を把握するのに、効果的援助要素の実施状況を把握するフィデリティ尺度は有効である。フィデリティ尺度は、効果的援助要素をチェックボックスに基づいて構成されているため、チェックボックスレベルの実施状況も明らかになる。フィデリティ尺度を用いたフィデリティ評価、フィデリティモニタリングは、毎月あるいは3ヶ月おきなど定期的に測定し、効果的な実践が行われているかを確認する。この確認は、自己評価によって行っても良いし、第三者評価によって行っても良い。評価の結果は、時系列的な折れ線グラフで表示して、プログラムの実施状況の推移を可視化する他、効果的援助要素各項目のレーダーチャートによって取り組みの課題を明らかにすることもできる。
効果的な実践を日常的に評価する上で、注目するアウトカム指標を日常的に評価することは重要である(アウトカムモニタリング)。近位アウトカム、中位アウトカム、場合によっては遠位アウトカムのうち、客観的に把握できて、簡便に測定できる指標を定めて(就労率、就労継続期間、退院率、再発・再入院率など)、定期的に把握し、チームの中で共有する。
上記のモニタリング活動を日常的に進めるためのシステムづくりが必要となる。忙しい日常業務の中では、フィデリティ尺度やアウトカム指標の測定がともすれば二の次になりがちだからである。
アウトカムモニタリングについては、日報、週報、月報の中で、アウトカム指標をチェックすることをプログラムチームの中で合意しておくとともに、日常業務で負担なく取りまとめが出来、チームでグラフなどを用いて共有化できるシステムの開発も必要である。
同時に、アウトカムモニタリングで良い成果が導かれた期間については、どのような取り組みが良い成果に結び付いたかをチームで検討してその要素を特定する。そして特定できた要素については、チームの合意を得て、実施マニュアル上、「実践上の工夫」の欄などに記載してチームで共有する。
また実践現場の創意工夫、実践的努力の内容のうち、実施マニュアルや、フィデリティ尺度に取り上げられていない要素についても、それがより良い成果に結びつくものについては記録に留め、実践プログラム関係者の間で共有化する。