1) CD-TEP評価アプローチ法開発の背景(1):世界の動向
近年、福祉実践プログラムを含む、保健・医療・福祉・教育・刑事司法など対人サービスの各領域では、世界的に科学的根拠に基づく実践(EBP)プログラムを中心に可能な限り「科学的根拠」(エビデンス)に基づく科学的な実践を行うことが求められている。
科学的根拠に基づく実践(EBP)とは、直感やあやふやな経験ではなく明確な科学的根拠に基いて効果的な実践的アプローチ法を選択し、その方法を実施・普及するための方法論あるいはその行動指針をいう。根拠に基づく検証を経た実践プログラムは、プログラム利用者の援助効果(アウトカム)を一貫して向上させる効果的プログラムモデル(含、EBPプログラム)に発展することが期待される(Drake et al, 2003)。そのためには、まず実践プログラムの成果(アウトカム)から見る有効性を、ランダム化比較試験(Randomized Clinical Trial; RCT)や、その他の比較による有効性研究(CER)などの介入評価研究で明らかにして科学的根拠(エビデンス)を蓄積することが必要である。さらに、効果的プログラムモデルを発展させるためには、プログラムプロセスやプログラム理論の検討・評価を行う必要がある。プログラム成果(アウトカム)を生み出すことに重要な貢献をする効果的なプログラム要素(効果的援助要素;critical components)を実証的・実践的に検証するとともに、構築される「効果的プログラムモデル」をプログラム理論評価の側面から検討することが求められている(大島、2010)。
さらにこんにち、これらの科学的根拠(エビデンス)や、構築された効果的プログラムモデルに関する知識や経験は、評価研究者のみならず、現場の実践家やサービス利用者・家族、政策立案者などの利害関係者が同じ地平で共有することが求められている。その上で、「根拠」に根ざした合意形成を行い、その実践プログラムをより効果的なプログラムに発展させることが期待されている。
2) CD-TEP評価アプローチ法開発の背景(2):日本の現状
一方、近年日本では、社会福祉制度改革・医療改革などの動向の中で、対人サービス領域の実践プログラムについても、達成目標を明示した新しい実践プログラムが相次いで導入されるようになった。介護保険法の介護予防プログラム、障害者自立支援法の就労移行支援プログラム、退院促進支援プログラムなどである。しかし日本の政策立案者や実践家など実践プログラムに関わる利害関係者の間では、科学的なプログラム評価と、実践家参画型協働型評価への認識は十分ではない。導入された実践プログラムを「根拠」に基づく、より効果的なプログラムへ発展させることへの関心と必要性の認識は残念ながら少なく、実践と実証の積み重ねが不十分なまま行政主導のプログラム導入が進められる。一方で、それを受け入れる実践現場では、さまざまな実践導入上の、あるいは実施上の課題が認識されたとしても、要綱に沿ったプログラムの導入と実施が比較的粛々と進められることになる。
本来であれば新しく導入された実践プログラムに対しては、実践家が積極的に参画・協働し科学的なプログラム評価を体系的・継続的に実施することが求められる。その上でプログラムに適切な改善・改良が試みられ、必要があれば評価結果に基づいてプログラム存廃の提案が行われる必要がある。さらに実践現場では、プログラムゴールとの関係で、日常的により効果的なプログラムのあり方が追求され、プログラムの改良を目指すことがめざされる必要がある。
3) CD-TEP評価アプローチ法開発のねらいと概要
このような状況に対して、私たちは、実践プログラム各領域に関わる実践家の皆さんと協働して、新しく導入された実践プログラム、あるいは既存の効果が上がっていない実践プログラムを、プログラム評価の理論と方法論を用いて、根拠に基づく効果的なプログラムモデルへと発展・構築させるための評価アプローチ法を開発した。本サイトで解説し、紹介する「プログラム理論・エビデンス・実践間の円環的対話による、効果的福祉実践プログラムモデル形成のための評価アプローチ法(CD-TEP評価アプローチ法;An Evaluation Approach of Circular Dialogue between Program Theory, Evidence and Practices)」である。
CD-TEP評価アプローチ法は、効果的プログラムモデルの開発評価(Ⅰ)、発展評価(形成・改善評価)(Ⅱ)、実施・普及・更新評価(Ⅲ)という3つの評価ステージにおいて、新しく導入された実践プログラムあるいは必ずしも効果が上がっていない既存の実践プログラムを、効果的で有用性の高いプログラムモデルに発展させるために、プログラム理論(T)と科学的根拠(エビデンス)(E)の活用、実践現場の創意・工夫のインプット(P)の継続的反映によって実現する方法をまとめたものである。プログラム理論と科学的根拠(エビデンス)、実践現場からのインプットの継続的な「円環的対話(Circular Dialogue)」によって、効果的なプログラムモデルに関する知識と経験および成果を蓄積し、現場の実践家やサービス利用者・家族、政策立案者などの実践プログラムに関わる利害関係者がそれらの知識・経験・成果を共有して、根拠に根ざした合意形成を行い、より効果的な実践プログラムに発展させることを目ざしている。
CD-TEP評価アプローチ法の具体的内容は、パートC「CD-TEPプログラム評価アプローチ法の実施ガイド」に示した。ここに記載された内容は、2007年度から2010年度にかけて、科学研究基盤研究A「プログラム評価理論・方法論を用いた効果的な福祉実践モデル構築へのアプローチ法開発」(主任研究者:大島巌))を受けて、9つの福祉実践プログラムを対象に行った評価アプローチの経験から蓄積された知識を整理し、集約したものである。現時点での記述内容と整理枠組みは、未だ開発途上のものであり、今後、福祉実践プログラムに限らず、対人サービス領域の多くの実践プログラムに適用して、より有用性の高い評価知識の集大成となることを期待している。